大船軒のサンドウヰッチ弁当を食べる

僕の好きな短編小説。大阪圭吉の『香水紳士』という作品にこういったセリフがあります。

「もし、おなかがすいたら、大船でサンドウィッチを買いますわ。あすこのサンドウィッチ、とてもおいしいんですもの」

この物語は主人公であるクルミさん(16歳の女学生)が、国府津に住んでいる従姉に会いに行くというもの。先述のセリフは、その小旅行が楽しみすぎて、朝ご飯も喉を通らないので、「駄目ですよ、クルちゃん。御飯だけは、ウンと食べて行かなくっては……」とお母さんに窘められた時に言ったセリフですね。

 

これを読んだ時に、僕は初めて大船ってサンドウィッチが有名なんだと知りました。

その後気になって調べてみたら、有名なんてレベルではなく、日本で初めての駅弁で120年以上の歴史がありました!!(明治32年販売開始)

駅弁界の始祖というわけですな。

 

確かにお弁当にサンドウィッチは定番ですが、当時の事情を考えると、サンドウィッチよりもおにぎりな感じがします。

実際明治時代の日本ではサンドウィッチを食べられたのは、上級階級の富裕層のみで庶民には縁のない食べ物みたいです。

しかしこの大船軒のサンドウィッチを皮切りに状況は一変。サンドウィッチは馴染みある食べ物になったわけですね。

ちなみに当時の値段は20銭。あんぱんで有名な木村屋のあんぱんが1個1銭(約200円)であることを考えると、相当高いですね。現在の価格にして約4,000円ですよ。それでも当時は物珍しさから飛ぶように売れたとのこと。

 

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さて今回は大船駅ではなく東京駅で買いましたが、どこで買っても同じものです。外装はこんな感じ。2023年6月現在の値段は550円。

当時を意識してレトロなパッケージ!サンドウィッチ弁当の歴史が書いてありますね。

 

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箱を開けると、お手拭きと共にビニールの中に包まれた6個のサンドウィッチがお目見え。左4つがハムサンド、2つがチーズサンド。ハムチーズサンドではなく、完全に分かれてます。トマトやきゅうり、ツナなんて無い。シンプルイズベスト!

 

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1個あたりの大きさですね。ちょっと小さめ。コーヒーがあったら最高でしたが、買うのを忘れる痛恨のミス。

ハムサンドは歯ごたえ抜群のハムに、からしマーガリンがたっぷりと塗られており、ちょっとピリ辛。大人な味。

チーズサンドはからし入りではなく、普通のマーガリンがたっぷりと。

マーガリンたっぷりなので、量以上に満足します。

物凄く美味しい!って言うわけでなく、安心する味です。是非一度は食べてみる価値があると思いますよ。

 

明治の人々はこれを食べていたわけですから、感慨深いです。冒頭に出てきた『香水紳士』も昭和15年の作品ですからね。これもかなり昔ですけれど、大船軒からしたらこの時点で40年余経ってる訳ですし、この頃には大船といえばサンドウィッチというイメージは完全に定着していたのでしょう。

改めて、この作品を通じてサンドウィッチ弁当の存在を知れてよかったと感じました。湘南モノレールに乗った時に大船駅には一度行っているのですが、その時には気付きもしてないですからね。サンドウィッチ弁当の他にも、アジの押し寿司弁当が有名らしいので、今度はそちらを戴こうかなと思います。

 

最後に大阪圭吉の『香水紳士』ですが、青空文庫で15分程度で読めますので、是非。

大船でサンドウィッチを買うつもりで、ウキウキと東京駅から列車に乗り込んだクルミさん。しかし列車が品川駅に到着すると、クルミさんの向かい側の席に目付きの鋭い怪しい男が座ります。なんとその男は銀行強盗の凶悪犯で……。さあ、どうするクルミさん!?

 

続きはご自身の目で確かめてください。ちゃんとタイトル通り香水も出てきますからね。ではでは。